『あした世界が終わるとしても』をみた感想
『あした世界が終わるとしても』を観てきました。
期待値ほぼない状態で観たので、評価としては「まあつまらなくはなかったかな……」という感じ。60点くらいの感想。
技術的なことはよくわからないのでアレですが、セルルックCGアニメでここまでできるようになってるんだ! という体験はできました。
- 経緯
もともと去年くらいに映画館で流れていたPV(うえ)と、今年に入ってから見るようになったPV(した)が、あまりにもジャンル違って気になっていた作品。転調の仕方としてはそんなに珍しくもないけど、青春恋愛映画ツラしたPVやポスターを信じていた人は面食らっただろうなぁと思います。
ただ映画館以外でほとんど宣伝を見ないし、公開されても周りのオタクから行ったという話題がひとつも上がらないので、正直記憶の隅っこの方に追いやられて忘れていました。そのまま忘れてても問題なかったのだけど……。
そんな映画になぜ行くことにしたのかといえば、ようやく「見た側」のオタクが観測範囲に出現したからで、そいつから「みらーさん『あしせか』見ました? 見てない? 早く観に行って感想聞いてください」と、壁打ちのカベに指名されたせいです。
まあだいたい自分が普段やっていることと同じなので無碍にもできず、どうやら公開ももうすぐ終わってしまうようなので、「おぉん? よっしゃ行ったろやんけ!」くらいのノリで映画館を検索し、朝9時からの1本しかやっていないことに心が折れかけ、それでもなんとか行ってきました。
前置きが長くなったけど以下感想。当然ですがネタバレを含みます。
- 世界観的な話
どんな話かは公式サイトでも見てもらうとして、 本作は、いわゆるパラレルワールドを扱ったSF作品です。
第二次世界大戦中、日本軍が秘密裏に行っていた物質転送の研究の影響で次元に歪みが生まれ、世界が2つに分裂してしまった。2つの世界にはそれぞれ相対関係にある人物がおり、どちらかの世界で片方が死ぬと、もう片方も死んでしまう。2つの世界は全く異なる歴史を歩みつつも、互いに干渉することはこれまでなかった……。というのが大まかな世界設定。
この設定は、Huluで配信されている櫻木監督のオリジナルアニメ『ソウタイセカイ』と共通のものだそう(主人公・ヒロインも同じ)なので、こちらも見るとより理解ができるのではないでしょうか。見ていないのでわかりませんが。
この世界観が、映画始まってしばらくすると古谷徹のナレーションでザクッと説明されます。重要そうな設定をナレーションで済ませてしまうのは時間の短縮と、とりあえず小難しいこと抜きに「そういう世界観」として見て欲しいのかな~と思って続きを見ていたら、もう1つの世界の主人公が普通に説明しました。じゃあお前なんでナレーションいれたんだ。
一応、戦時期の日本軍の研究が原因という設定はナレーションでしかわからない部分です。こういうトンデモ設定をぶち上げるとき日本軍は便利ですよね。ちなみに日本軍は物語上まったく関係がありません。
それで2つに別れた世界ですが、1つは主人公・真とヒロイン・琴莉の暮らす、我々のよく知る歴史をたどった日本のある世界(α世界)。もう1つは公女と公卿という独裁体制が敷かれ、巨大な貧富の格差を抱え荒廃の一途にある日本公民国が生まれた世界(β世界)。日本公民国側の世界における諸外国はよくわかりません。パンフレットによれば日本公民国は鎖国状態らしいので、外国の概念はあるみたいです。自国内とはいえ原子力爆弾っぽいの投下してみたり、日本公民国かなり愉快にはしゃいでるけど、アメリカとかどうしてるんだろうね……。
作中でのこの世界設定のキモは、α世界で恋人関係1歩手前な真と琴莉が、β世界では日本公民国に対抗するレジスタンス・ジンと国を支配する公女・コトコという全く違った関係になっているというところ。ジンは日本公民国を変えるため、コトコの相対である琴莉を暗殺しようとα世界に転移。コトコ側も不穏分子の排除のため、ミコとリコという双子の人型兵器をα世界に送り込み、真の命を狙う……というのが、最初にこちらに提示された勢力図でした。
幼馴染を狙う刺客が自分で、しかも別世界の幼馴染が自分の命を狙っているという構図は結構面白く、展開に期待が膨らむ……のですが、コトコに色々思惑があったことがわかり、わりとすぐ和解方向に。個人的にはこの関係をもう少しやってキャラを掘り下げてほしかったのですが、尺的に難しい気がする。
このほかにも「相対する世界」という設定は、終盤日本公民国が日本に侵攻をかけてくる際にも、内閣府要人の相対をβ世界で処刑することにより政府を沈黙させる内閣総辞職斬首、β世界の人民を何十万人と虐殺することでα世界にも同数の死者を生み抵抗への見せしめとする無差別攻撃と、いい感じに使われています。日本公民国という大ボスの悪性が見えるやり方で、これは結構好き。ただ、ここまでの攻撃を仕掛けてα世界の日本を獲ろうとする公卿側の理由が描写されず、正直わかりませんでした。資源豊富な新大陸見つけてはしゃいじゃったかなという感じ。
生まれたときから相対がいるのかとか、β世界とα世界の状況差を考えるともっとヤバイ数の死人がα世界で出てるんじゃないかとか、色々思わないこともないですが、まあそのへんの整合性は今回の主ではないので忘れてもいいんじゃないかなと個人的には思う。
- 物語についての話
和解したのでもうお話は終わりとばかりに、敵対していた真たちがあいみょんの挿入歌にのせて遊ぶMVが流れますが、尺的にはまだ半分くらいなので、コトコが公卿に処刑され、琴莉が死んでしまうという急展開で物語は次のフェーズへ。
日常の象徴だったヒロインを中盤で殺してしまうのは、なかなか大胆な動かし方で、この後どうするんだろうと結構心配するくらいには楽しんでいたのですが、ここから物語が対日本公民国、アクションシーン重視になってしまい、正直その辺はあんまり刺さらなかったな……という感想に落ち着いてしまった。和解するまでの物語が動き出しそうな感触が結構好みだったので、そこはちょっと残念でした。この物語の最後は真が琴莉に「僕はキミが好きだ」と気持ちを伝えて終わるので、これは幼馴染に告白するまでの、旅と成長の話とも言えるわけですが、間に詰め込んだものの主張が強すぎる。
これは完全に好みの話なので、だからこの映画はダメだという気は全く無いのだけど、話の中心が「真と琴莉(およびβ世界を挟んだジンとコトコ、ミコ・リコ)の関係」から、「日本公民国によって壊される世界を守る」に移ってしまったので、キャラクターの掘り下げが足りないまま世界を救う戦いを見せられ置いてけぼりを食らってしまった印象を受けました。
とくに真側の戦う動機が弱いような。真は琴莉の死を乗り越えて戦いに臨むわけですが、真から琴莉がどういう存在であったのかという部分は、古谷徹のナレーションより大事だと思うので、ちょっとでも詳しく入れて欲しかったところ。あと最後に生き返らせるなら殺す必要なかったよね、琴莉。この際、どうして生き返らせることができるのかという理屈は横に置いておきますが、展開に勢いを出すために殺して、ハッピーエンドにしたいからととってつけたように生き返らせるのだけは全く評価できない。
CGの強みを活かした大胆なアクションはとても良かったのだけど、そこに尺を使ったためにキャラの掘り下げが弱くなってしまい、琴莉の死から再起する真や、世界の相対関係を絶つ際のミコとリコのセリフがとってつけたものに感じられてしまい、なんとも惜しい気持ちに。
最初の人物関係が好きなので、もう少しあの関係を転がしてから日本公民国と戦ってもよかったんじゃないかなぁと思うのですが、人間関係や感情をやってアクションもやるには尺がないですよね……という。深夜アニメでやりましょう。
感情に尺を取ると流れとしては停滞してしまうので、その分をアクションに振って勢いを持たせたのは、90分のエンタメ映画としては正解なのかもしれない。人間関係をどこまで描いてほしいかも結局好みの問題なので、まあ、今回はご縁がなかったということで……。
- まとめ
SFで、恋愛要素入れて可愛い女の子も出して、アクションシーンも……と好きなものをこれでもかと詰め込むその姿勢は好きだけど、説明不足感と掘り下げ不足感が強かったのでどこか削ってもよかったのでは。
セルルックCGは本当に違和感がなく、キャラクターの描写も繊細でかわいく、今後もこういうアニメが増えていくならかなり期待できるなと思います。ミコとリコの双子かわいかったので、キャラクター単位で言うならこの2人組でもうちょい活躍が見れるとよかったな。
見て損したということは全く無いのですが、2回目観るかなぁと考えると、別にいいかな……という作品でした。